今回はデザインアカデミーアイントホーフェン(Design Academy Eindhoven)の入学試験についてお話していきたいと思います。デザインアカデミーアイントホーフェンには4年制のBA(学士)コースと2年制のMA(修士)コースがあるのですが、この記事では主にBAコース(学士)の入学審査について私の体験も踏まえて紹介させていただければと思います。
1955年創立のデザインアカデミーアイントホーフェンの特徴は、まず第一にデザインに特化している美術大学だということです。したがってアート系のコースは無く、デザインのコースのみです。学校の授業はすべて英語で行われるので、オランダ語が話せなくても大丈夫です。(ちなみに、私のクラスでもオランダ語を話せるのはオランダ人のクラスメイトくらいしかいません。)なので、ロンドンやアメリカといった英語圏の国への美大留学を考えている方が候補の一つとして受験されたりすることも多いようです。人種の割合はオランダ人が一番多くだいたい3割〜4割ほど、フランス人も同じく3割〜4割、続いてイギリス人が1割〜2割で後はドイツやイタリアといったヨーロッパ圏の生徒とアジア圏の生徒で構成されており、とてもインターナショナルなところもこの学校の特色かと思います。また、Dutch Design Weekという年に一度のオランダのデザインの祭典が開催されるEindhoven(アイントホーフェン)にある大学ということで、ドローグデザインに代表されるユニークでコンセプチュアルなデザインを学べる大学でもあります。
BAコースは4年制で、1年次は専攻を決めずにデザインに必要な基礎的な経験やスキルを幅広く学びます。そして、2年次から下記の8つの専攻に分かれ、より深くデザインについて勉強していきます。
この学校の特色は専攻名を見ても分かる通り、専攻がグラフィックデザインやプロダクトデザインといったデザイン分野ごとに分かれている訳ではなく、FoodやLeisureといったテーマごとに分かれているところです。そのため、「グラフィックも、建築も、プロダクトも、なんならインスタレーションも使って作品を作りたい!」「デザインを学びたいけど、どの表現媒体にも興味があって一つに選びきれない!」という人もクラスメイトには多くいます。ただ、その分作品に対してのコンセプトやアプローチが重視されるので、デサインのテクニカルで具体的なスキルを学ぶというよりは、すべてのデザイン分野に共通するデザインに対する考え方やデザインを生み出すためのアプローチを実践を通して学んでいくカリキュラムになっています。そして、卒業後の卒展はデザインの一大イベントであるDutch Design Weekの中に組み込まれているので、学外に幅広く自分の作品をアピールするとてもいい機会となっているようです。
学費はオランダの学生、インターナショナル(EU圏内の学生)、インターナショナル(EU圏外の学生)で金額も異なっており、私の場合は下記の金額を一括払いでした。(※2018年3月当時)
上記を見ても分かる通り、1年目は学費€8,902+諸経費€476=€9,378(※€1=¥128.24換算にて約120万円)に加え、ビザ申請のためのデポジット€10,476(※€1=¥128.24換算にて約134万円)もあるので、合計で€19,854(※€1=¥128.24換算にて約254万円)を学校の銀行口座に振り込みました。ただ、このデポジット€10,476に関しては、現地にてオランダの銀行口座を開設した後に戻ってくるので、実質約120万円の学費です。イギリスやアメリカの美術大学と比べると安い学費かと思います。
オランダ教育課程のHAVO-, VWO- or MBO-4-又はそれと同等の教育課程を修了した者。詳しくはNufficのサイトで日本の教育課程のどれと同等なのかは調べられますが、専門学校・短大・大学レベルの教育機関を卒業していれば問題はないようです。
まずデザインアカデミーアイントホーフェンのHPよりオンラインでApplication formを記入し、送信します。(毎年10月〜2月までの間が受付期間のようです。)その後、Design Academyから面接の日程が登録したメールアドレス宛に送られてきます。私の場合は3月の第2週が面接でした。面接は指定された日の午前または午後のどちらか一方で、半日で終わります。面接終了後は在校生が学内の案内ツアーをしてくれます。試験結果は4月中旬までにメールで送られ、私の場合も4月の中旬に合格通知を受け取りました。
審査は上記の通りポートフォリオ、今までのプロジェクト・作品、Home assignmentsにて行われるのですが、面接当日は4〜6つのプロジェクト・作品とHome assignmentsしか審査されません。印刷したポートフォリオについては、プレゼンテーションが終わった後に面接官に提出します。後日その内容も含めて評価しているようです。
共通課題(Home assignments):私の時は「自分のポートレイトを抽象的で立体的な形で表現しなさい。」というものでした。細かい条件として「好きな素材(またはこれから扱いたい素材)/ 触りたいと思うテクスチャ(または自分が好きなテクスチャ)/ 今の自分をよく表現する配色 / 自分をよく表す動作1つ(手動でも自動でもよい)を組み込む」があり、細かいところまでしっかりとコンセプトに結びつけた作品が求められているようでした。
選択課題(Home assignments):5つの課題の中から1つを選ぶ形式で、課題は「オフラインで人とつながりコミュニケーションがとれるデザインを考えよ」や「自分の周りの親しい人を表すトーテムポールを考えよ」、「びっくり箱について調べ、最新のびっくり箱をデザインせよ」など遊び心に溢れるものばかり。これは他の受験生のプレゼンを聞いていて感じたのですが、同じ課題を選んでもアプローチ次第で全く異なる作品になる分、自分の考えやテーマに対するアプローチが作品の中に現れやすいようでした。これもコンセプチュアルと言われるデザインアカデミーアイントホーフェンらしい課題だなと個人的には思います。
当日は校舎の3階(学生課があるところです)まで上がるとそこに受付があり、自分の名前を告げると自分がどのクループなのかを伝えられます。
受付横の通路を通って会場に入ると、グループごとに分けられたスペースがあり、持ってきた作品を与えられた0.5m×2.10mの長机にディスプレイして行きます。ちなみに準備時間として1時間与えられるので、結構ゆったりと準備できました。
面接は1グループ約10人で、質疑応答も含め1人あたり約15分のプレゼンテーションの時間が与えられると事前にメールで知らされていたのですが、私のグループは人数が10人以上いたため1人あたり12分の持ち時間でした。
面接の流れはざっくり上記の感じで、最初は一人一人の自己紹介から始まりました。試験だからといってピリピリした雰囲気という感じではなく、面接官の先生が「今日は楽しみましょう!」と言うように、結構和気あいあいとした雰囲気でスタートしました。そして自己紹介が終わるといよいよ一人一人のプレゼンテーションです。プレゼンテーションでは面接官だけでなく、同じグループの受験生も積極的に質問するように言われ、私もいろいろと突っ込まれました。しかしここでも厳しい質問が飛んでくるというよりは、面接官・受験生問わず好奇心から質問を投げかけている印象でした。持ち時間の12分のうち、半分の6分間はHome assignments、残り6分間はそのほかの作品・プロジェクトに充てるように言われ、私のグループではタイマーでしっかり時間どおり進められました。ただ、これは面接官によるようです。全員のプレゼンが終わった後は、面接官より「最後に言い残したことがあればアピールしていいよ」とのことで、アピールしたい人は挙手して「なんでこの学校に入りたいのか、なぜ自分がこの学校に相応しいのか」などを熱く語っていました。(ただし、この時作品に対する追加の説明・プレゼンは認められませんでした。)1〜3まですべて含めて、だいたい2時間ほどで面接は終わりでした。
英語について:英語については事前にも事後にもTOEFLやIELTSのスコアを提出することはないので、この面接を通して評価されます。入学してから留学生向けの英語の授業がある訳ではないので(数年前まではあったそうなのですが)授業についていけるだけの最低限の語学力は必要なようです。とはいっても英語をネイティブ並みに流暢に話せる必要はなく、「自分の作品とコンセプトをしっかり伝える」「面接官・同じグループの受験生からの質問をしっかり聞いて自分なりの答えを提示する」ことができれば大丈夫な印象を受けました。(私も面接時は面接官やグループの受験生の英語が何回か聞き取れない時があり、その度に聞き直しながらなんとか質問に答えていました。)
今回は入学審査のお話をさせていただきましたが、次回は専攻に分かれる前の1年次のカリキュラムについてお話させていただこうと思います。