【美大留学記#05】何に対してお金を払っているのか

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こんにちは。今回は、私が通っているデザインアカデミーアイントホーフェンにて学べること、得られるものについて考えてみました。

(前回はこちら:【美大留学記#04】日本のデザイン・文化の背景にあるストーリーに注目する

ドローグデザイン(Droog Design)に代表されるように、オランダはコンセプチュアルデザインが有名ですが、デザインアカデミーもまたコンセプチュアルなデザイン学校として知られています。

では、そこで学べるものって具体的に何なのでしょう?学費と等価交換なものって?

ということで、今回は『何に対してお金を払っているのか』というテーマでお話させていただきたいと思います。

基礎的なソフトウェアのスキル?素材に対する理解?

デザインアカデミーはアートとデザインの両方を学べる大学ではなく、デザイン専門の大学です。なので、皆卒業したらデザイナーとして社会に出て働くことを目指して日々学んでいます。

では、デザイナーに必要なスキルって何なのでしょう?

「デザイナー=MacでAdobeのソフトウェアをぐりぐり使って仕事ができる人」というイメージがあるように、デザイナーにとってソフトウェアのスキルは必須です。

例えば・・・

  • グラフィックなど2D⇒Illustrator、Photoshop
  • アニメーションなど映像系⇒Illustrator、Photoshop、After Effects、Cinema 4D
  • プロダクトや空間といった3D⇒Illustrator、Photoshop、Rhinoceros、Vectorworks

といったような感じです。

なので、デザインの学校であるデザインアカデミーでも当然そういたソフトウェアのスキルを身に付けるための授業はあるものだと想像していたのですが、実際はほとんどありませんでした。

(IllustratorとPhotoshopについてはそれぞれ約2時間の講義が1回ずつ、Rhinocerosについては約2時間の講義が5回ほど1年生の時にあったきりです。)

そもそも、クラスメイトのほとんどの子がIllustratorとPhotoshopは入学前から普通に使いこなせますし、すでに大学で建築やプロダクトを学んだ後に入学した子や、もうすでにデザイナーとして働いていた子もいるので、スキルについては学校でカリキュラムとして教える必要がないのかもしれません。

では、ソフトウェア以外でこの学校に通って学ぶメリットとは何なのか?

まず思い浮かぶのが「実際に手を動かしながら、アート&デザインの視野を広げることができる」ということ。

デザインアカデミーの1年目ではペインティングからリサーチ、クラフト的なモノづくり、平面表現の仕方から立体表現の仕方まで幅広く学べるので、その経験と知識は2年生になり学科に分かれてより専門的に学ぶようになった今でも、かなり役立っているような気がします。

(1年生で何をやるのか?というのはこの記事して紹介してます:
欲張りなデザインアカデミーアイントホーフェンの1年目を振り返ってみる

あとは、「実際に作品を作れる設備が整っている」ということ。

現在、デザインアカデミーの中には以下の7つのワークショップがあります。

  • Digital workshop(Adobeソフトが使えたり、大きいサイズの印刷ができる)
  • Wood workshop(木材の加工ができる)
  • Metal workshop(金属の加工ができる)
  • Plastic workshop(シリコンやラバーなどプラスチックを扱うことができる)
  • Ceramic workshop(陶器、磁器の制作ができる)
  • Textile workshop(素材を買えたり、工業用ミシンを使うことができる)
  • 3D print studio(3Dプリントやレーザーカッティングができる)

それぞれのワークショップ自体は大きくないのですが、実際に素材を扱って、手を動かしながら身体で加工方法や素材への理解を深めていくことはデザイナーとして必須なことなので、このワークショップも、この学校に通う大きなメリットの一つと言えます。

「道に迷う」ことができる環境に価値がある

1年生でアート・デザインに対する視野を広げることができ、学校にはアイディアを実際の形にするための7つのワークショップがある。

これだけでも学校に通うメリットはありますが、学校に1年半通ってみて感じることは、「それ以上に“環境”にこそ価値がある」ということです。

具体的には、「道に迷うことができる環境」ということです。

2年生から学科に分かれるといっても、「グラフィック」「プロダクト」「ファッション」のように分野ごとに分かれている訳ではないですし、学科ごとの課題も〈小さな変化で大きな影響を及ぼすものをデザインせよ〉のようにかなり自由度が高いので、詰まるところ、何をやってもOKなんです。

しかし、「何をやってもOK」ということは「アイディアから最終的なデザインまで、自分で責任をもってやらなければならない」ということです。

こう言うと制約が少ない分、制約がある場合よりも比較的簡単に出来そうに聞こえるかもしれませんが、実際は全くの逆なんです。

自由に決めていいということは、それだけ多くの選択肢があって、その分多くのことを決めなければいけないので。

(「3コの中から1コ選べ」と言われれば簡単ですが、「100コの中から1コ選べ」と言われたら難しいのと同じですね。)

だからこそ、プロジェクトを始めるたびに「道に迷う」んです。これは私だけでなく、ほとんどのクラスメイトが道に迷って、うんうん唸りながらアイディアを考えてます。

「自由にやっていいけど、決めれらた期限内に説得力のあるアウトプットとしてのデザインを生み出さなければいけない」みたいなプレッシャーは、多かれ少なかれ皆んな感じていると思います。

でも面白いことに、そんな風に悩んで生み出したデザインの方が、最初から順風満帆にいった結果出てきたデザインより魅力的であることが多いんです。

だからこそ、先生たちは生徒が道に迷うことを推奨しますし、順風満帆にいきそうな生徒に対しては「それ、最終的に作るものを決めてるでしょ。それはダメ。」なんて釘を刺したりしてます。

とは言っても道に迷うのは居心地が悪いものなので、立ち止まりそうになるのも当然です。

そんな時に「クラスメイトと(課題について)話してみる」ことで、かなり助けられたりします。

幸いなことに、デザインアカデミーに通っている生徒のバックグラウンドはバラエティに富んでいるので(国籍しかり、出身地しかり、経歴についても元銀行員だったり、元薬剤師さんだったり)自分とは違った視点を入れることはそこまで難しくなかったりします。

つまり、私たちは何に対して学費を払っているかと言えば、「ある程度のプレッシャーの下、道に迷いながら、時には第三者の視点を入れながらデザインを生み出していく」という環境に対して、ということになるのです。

だからこそ、「道に迷う」ことを意識して、自分なりの「道の迷い方」みたいなものを見つけることが魅力的なデザイナーへ近づくことに繋がるのではないかと思います。

さいごに

今回は「道に迷うことができる環境の大切さ」というテーマでお話させていただきました。

これはデザインに限らず、他の分野でも転用できる考えだと思うので、一度は「プランの中に“道に迷うこと”を組み込んでみる」ということを試してみるのはいかがでしょうか。

それでは。

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